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COLUMN
連載

鈴木尚広が行く~台湾での臨時コーチ体験~

第3回 コーチャーズボックスに立って思うこと

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姜建銘と一緒に


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自転車移動中


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台東の球場です


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コーチ鈴木尚広

 こんにちは、鈴木尚広です。

 いよいよ、こちらの公式戦が始まりました。春季大会です。本拠である台北を離れて、台東に移動してきての初戦を迎えています。
 
 初戦の前日となった12日に、特急電車で3時間半かけてやってきた台東。車窓から見える海岸線は、なんだか宮崎のものと似ていました。現役を離れたことで、今年はキャンプで行くこともなかった地を台湾で思い出させてもらった電車旅となりました。

 台北よりも自然にあふれた土地です、台東は。ホテルに荷物を置いたら、すぐに近くの中学校に移動して練習をしました。歩いても大した距離ではない、ということで、みなで歩いていくということだったのですが、一人の選手が「鈴木さんの分もちゃんと用意していますから」とホテルのレンタルサイクルのカギを持ってきてくれて。

 自転車で移動するのはいいのですが、これがまたなんともおかしくて。監督が歩いているのを尻目に、選手たちが自転車で通り過ぎていく。こんなこと、日本じゃありえないですよね。とはいっても、この僕もそうして颯爽と監督を追い越して行きましたが。そしてウォーミングアップと素振りを行って、翌日の試合に備えました。

 そして迎えた試合。配られている春季大会のパンフレットには、僕の顔写真もコーチとして出ていました。初めて一塁コーチャーをすることにもなり、なんだかワクワクしていたら、なぜか試合前に組む円陣で、僕が声出し係として指名され。これって、普通、主将とか選手がやるものでは? なんて質問する暇もなく、何言えばいいんだかわからないまま、みなが手を重ね合う円陣の中で、とりあえず「オー」だかなんだかよくわからない音をとにかく大きな声で言って、気合を入れて始まりました。

 試合は初戦から、劇的でした。僕のジャイアンツ時代のチームメイトで、今ではすっかり僕の通訳にもなってくれている姜建銘(ジャン・チェンミン)がソロホームランを放って9回までリードを保っていましたが、サヨナラ満塁弾を食らって負けました(笑い)。

 一塁コーチャーズボックスに立つと、なんだか見える景色が選手時代と違います。マウンドに立つピッチャーがやたら遠く見えました。一塁走者である程度リードをしながら見るピッチャーは、ものすごく近く感じたものです。距離感が違うんです。

 コーチとして立つこのコーチャーズボックスの枠が、もう自分が選手じゃなくなったという、選手とコーチという立場の境界線なのかもしれませんね。

 でも、ここに立つと今まで見えなかったピッチャーの動きがよく見えます。これまで現役時代では見られなかった角度で投手が見えるので、球の握りが見えたり、クセなんかもわかりやすいんです。

 走ること、つまり盗塁することって、やっぱりそんな簡単なことじゃありません。でも、何か一つ、ヒントというか背中を押してくれる走れる根拠、みたいなものがあると、当然走りやすくなります。だから、例えば投手のクセだったりを僕がここでちゃんと見つけて、それを選手に伝えてあげることで、彼らの走ることへの自信につなげられたら、と思うのです。コーチャーズボックスに立って、今まで選手としては見えなかったものをできるだけ見つけて、選手たちに伝えていければ、と思っています。

 自転車移動もそうですが、まあ色々と新鮮に感じることばかりの毎日です。電車での移動は「私服で」と言われていたのですが、まあ、この私服がゆるい(笑い)。中には、短パン姿もいました。プロじゃない、って言っても、社会人ですからね。私服にも限度があるんじゃないか、と思いつつ。でもそれも形式にとらわれないというか、こういう文化もおもしろいです。

 試合中にはベンチから「代走・鈴木!」とか冗談で声が出てたりして、選手の中にもすっかり溶け込んでます。その分、臨時コーチとして来ているのに、僕は選手?コーチ?という感じで、自分の立ち位置もわからなくなってきました(笑い)。5日間の台東遠征を終えて台北に戻ったら、練習日を1日過ごして、僕は帰国の途に着きます。彼らにすっかり受け入れてもらっているだけに、なんだか別れの日が近づいてきて、寂しくなってきてます。

 またご報告します。

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一塁コーチャーです


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コーチャーズボックスからは色々見えます

 昨年限りで現役を引退した巨人軍OBの鈴木尚広さんが、3月1日から3週間に渡って台湾の社会人野球チーム「崇越」で、臨時の守備走塁コーチを務めることになりました。「鈴木尚広が行く~台湾での臨時コーチ体験~」と題して、尚広さんのコーチとしての奮闘をコラムで数回にわたってご紹介します。