3日目:クリケット体験とエクマットラアカデミー訪問

■施設の規模にビックリ

 バングラデシュ滞在3日目は、ダッカから北へ車で約1時間の場所にあるBKSP(Bangladesh Krira Shikkha Protisthan)を訪問しました。BKSPは国立のスポーツコンプレックス(複合)施設で、トップレベルの競技者を育成しています。国内8都市中7都市に同施設があり、今回訪問したのはBKSP本部で7施設中一番の規模なんだそうです。施設内には21種目のスポーツ施設のほか、700人が生活できる寮、小学校から短大までの学習施設もあります。この施設へは約1年前に、会田有志ファームディレクター、円谷英俊スカウトも訪問しています。  まずは、食堂で朝食をいただきながら、施設スタッフの方々にお話しをうかがいました。朝食後は東京ドーム約63個分という広大な敷地内を車で移動しながら施設を見学。南アジアで最も大きいという室内サッカー場や、1000人規模の食事会が開催できるコミュニティーセンター、4面ずつあるクリケット場とサッカー場など、その規模感に一同は何度「すごい」と口にしたことでしょうか(笑)。  他都市にあるBKSPからも選手が短期合宿先として訪れ、本部施設でのトレーニングを受けることもあるそうで、プール付きのリゾートホテルのような短期選手向けの宿舎もありました。

   南アジア最大の室内サッカー場

  まるでリゾートホテルのような短期選手用宿舎

■クリケットでも体験交流

 各施設を見学した後は、クリケット選手としてBKSPでトレーニングを積む小学6年生から高校1年生までの子どもたち15人と交流しました。成瀬コーチ、北之園コーチが野球についてレクチャーすると、普段クリケットをプレーしているだけあり、初めて野球をやったとは思えない剛速球を投げる子どもたちに、二人はたじたじです! 一方、投げるのは得意でもグローブで捕球するのは難しいようで、つい強く投げ返すコーチ2人に「優しく投げて!」とリクエストする子どもたちの姿がありました。  野球体験のあと、今度は、子どもたちからクリケットを教えてもらいます。クリケットは助走をつけてワンバウンドボールを投げるのですが、速球タイプと変化球タイプがあり、速球派の選手は助走が長いとのこと。野球と違い肘を15度以上曲げてはいけないので、投手出身の成瀬コーチも慣れるまで苦戦していました。バッターは360度どこにボールを飛ばしてもOKで、ボートを漕ぐオールのようなバットでワンバウンドしたボールを打ちます。野球のバットとは違う重さとバランスで、最初は戸惑う北之園コーチでしたが、徐々になれ、ホームラン級の打球を見せると拍手が起こりました。クリケットは2028年のロサンゼルスオリンピックで実施されますので、ぜひご注目いただけたらと思います。  その後、施設長の方と面会して、BKSPでの野球競技追加についての可能性や、コロナ禍でストップしていた日本からの指導者派遣再開についてなどの情報交換をしました。最後にお土産としてBKSPのキーホルダーをいただき、視察は終了しました。

  子どもたちとキャッチボールをする成瀬コーチ

  クリケット体験をする北之園コーチ

   クリケットの選手たちと記念撮影

■トラブルあり、象ありの長距離移動

 BKSPを後にし、首都ダッカから北へ約170km離れたインドとの国境近く、マイメンシン県ハルアガット郡にある、「エクマットラアカデミー」を目指します。元ストリートチルドレンが生活していて、バングラデシュ野球代表チームの渡辺大樹監督が共同代表を務め、2018年に開校された全寮制リーダー育成施設です。路上で暮らす子どもたちが、生まれた環境に関わらずチャンスを掴み、自分自身の人生を謳歌できるように長期的な視野で人材育成をしています。渡辺さんはダッカで路上生活をする子ども本人、家族と向き合い、彼らの意志を確認しながら、今の環境を変えるチャンスを掴みたいと願う子どもたちの支援を続けています。  1台のバンに乗り込み、約4時間の旅へ出発です。  いくつかの街を通過しながら進み、行程の半分ほど進んだ時に立ち寄ったガソリンスタンドで事件は起こりました。順番を待つ列に並び始めましたが、30分たっても順番が回ってきません。外に出て行った運転手は戻ってきませんでしたが、日本から来た我々は「バングラデシュではガソリンを入れるのも渋滞するんだな~」くらいにしか思っていませんでした。、。すると、助手席でうたた寝をしていた渡辺さんが目覚めて車を飛び出しました。怒号が聞こえてきます。ポンプが弱まって補給ができなくなっていたそうで、その状況に何の手も打たずに立ち話をしていた運転手と店員に、渡辺さんが喝を入れたのです!他の乗物からも人が集まり、すごい人だかりの中でベンガル語の怒号がしばらく響いていました。  その後、予定より遅れて約5時間の長旅の末、ハルアガットに到着しました。到着直前、前方に象が1頭いるではありませんか! 反対車線の三輪バイクにちょっかいを出し、通せんぼうをして「どいてほしかったらお金を出せ」と要求していたようです。なんと強引な! この辺りはインドから野生の象の群れが入り込んでくるそうで、毎年、象を追い払おうとした人が犠牲になっているとのこと。2日前にも犠牲者が出たそうで、出会った象は野生ではありませんでしたが、象の怖さを感じた瞬間でもありました。

   通せんぼうする象

■エクマットラアカデミーの子どもたちに野球指導

 現地の中学校校庭では、エクマットラアカデミーの子どもたちが我々の到着を待っていました。到着してすぐに、低学年と高学年に分かれて「打つ」と「投げる」の指導を行いました。「打つ」を担当した北之園コーチは、アカデミーの校長先生に英単語をベンガル語に通訳してもらいながら、バットの持ち方、振り方、流れを説明します。順番を決めたはずが、いつの間にか「次は僕の番だ!」とバットの取り合いが始まりました。「これも文化や国民性の違いですかね」と、日本では見慣れない光景にあたふたする北之園コーチでした。  「投げる」指導は、成瀬コーチが渡辺さんに通訳をしてもらいながら担当しました。クリケットを知っている子どもたちは投げるのが得意で、初めて触れるであろう硬式球を上手に投げてキャッチボールを楽しんでいました。  最後に、子どもたちだけでも楽しんでもらえるよう、「バックホームゲーム」という野球のルールを簡易化したゲームを紹介して、代表者に体験してもらいました。ルールを理解するのに時間はかからず、すぐに楽しみ、作戦も考える子どもたち。終わるころには見学していた子どもたちも前のめりになりながら夢中になっていました。  日が暮れるまで野球体験を楽しみ、アカデミーの施設に向かう時間になりました。約6キロの道のりを、子どもたちが「一緒に走ろう!」と誘ってきます。北之園コーチは途中まで子どもたちとランニングを楽しみながら向かいましたが、成瀬コーチはちゃっかり、低年齢の子どもたちと三輪バイクに乗り込んでいました(笑)。  アカデミーに着くと、シャワーを済ませ、食堂で夕食会です。日本から持ってきたジャイアンツのオレンジタオルを食事前に1枚ずつプレゼントし、ジャイアンツの応援では点数が入ったときや勝利した時に振り回して喜ぶことを伝えました。バングラデシュ対スリランカのクリケットの試合がたまたまテレビ中継されていたので、食後に全員で観戦。すると、ホームランが出たとき、勝利の瞬間に、早速、オレンジタオルを振り回してくれたこどもたちでした♪  食事中、コーチたちは子どもたちから質問攻めにあい、ベンガル語を教わりながら、食事の時間を楽しみました。今日は我々も施設内に宿泊し、明日の朝礼に参加した後、車でダッカへ戻ります。 帰り道では何事もないよう願うばかりです…。

アカデミーの子どもたちにバッティングを指導する北之園コーチ

  バッティング練習をする子どもたち

   投げ方を確認する子どもたち

  バックホームゲームで投手を務める成瀬コーチ

  子どもたちとランニングする北之園コーチ

  アカデミーへ三輪バイクで向かう道中の笑顔

   食堂でのにぎやかな夕食