4日目:涙の別れ、大渋滞、クラクションの嵐

■アカデミーで涙の別れ  エクマットラアカデミーでは早朝に子どもたちが体操をしていると聞き、朝6時30分に施設内の広場へ向かいました。早朝から元気いっぱいの子どもたち! まずは整列をして、スキップや腕回しなどの体操をしました。  前日の打つ練習中もそうだったように、特に年齢の小さい子どもたちは、「順番通りに並ぶ、列を作る」といったことが苦手なようでしたが、徐々に「規律を守る」「周りを見て行動する」という点が身に付くようになり、その光景を見た渡辺大樹さんは大喜びです。最初は数人だった子どもたちも、いつの間にか20人くらいが集まり、朝の運動は賑やかに行われました。  その後、食堂で朝食をいただきました。  もちろん、朝からカレーです(笑)。朝食後は毎朝行っているという朝礼に参加しました。広場に整列をして、校長先生のお話や、音楽の先生が奏でる伴奏に合わせて国歌を歌ったりしました。  我々も子どもたちへメッセージを送ることになりました。  成瀬コーチは「プロに入って、もっと先輩たちにいろいろ質問すればよかったと後悔しています。一時の恥を気にせず、知らないことを恥じずに、人に聞いてみたりして、好きなことを見つけて頑張ってください」とエールを送り、  北之園コーチは「小さなことでも積み重ねていくことで大きな力になります。僕も野球を始めて、コツコツ続けることでプロ野球選手になることができました。みんなも自分の中で、続けることを見つけて、一日一日を大切に楽しく過ごしてください」と訴えました。

   早朝に運動をする子どもたち

   制服を着て整列する子どもたち

 最後に、子どもたちが少しずつ編んでくれたというミサンガをもらい、つけてくれました。子どもたち一人ひとりと別れを惜しんでいると、思わず北之園コーチの目に涙が。路上生活という過酷な環境から、何かを変えたいと自らの意志でアカデミーに入り、勉強を頑張る子どもたちに、改めて心を動かされたのでした。  朝礼後、3年生以上の子どもたちは地域の学校に向かい、2年生以下の子どもたちはアカデミー内で授業を受けます。各教室の様子や、図書館などの設備を見学すると、図書館には日本の団体から寄付された見慣れた絵本や、ベンガル語訳がついた本もありました。  施設の奥には畑もあり、カボチャやキュウリなど食事で出てきた野菜が子どもたちの手で大切に育てられていました。他にも、渡辺さんの妻の麻恵さんが、女性の働く場所と収入を支援する工房もあり、麻を使ったバッグなどを製作して販売をしているのだそうです。

   手作りのミサンガをいただきました

  子どもたちに囲まれて涙する北之園コーチ

  授業を受ける子どもに話しかける成瀬コーチ

 図書室には日本から寄贈された絵本も多くありました

■インド入国!?国境へ  隣国インドとの国境が近いとのことで、向かってみることにしました。  地元の警察がバイクで先導してくれ、10分弱車で進むと国境にある税関所が見えてきました。さらに先を進むと小屋が見え、国境警備隊が2名駐留していました。渡辺さんが「これはラッキーかもしれない!」と子どもの様にはしゃいでいるのを不思議に思っていると、何やら国境警備隊の方々と話をしています。普段は国境の手前の不毛地帯に入ることはできないのですが、国境警備隊の方たちがいることで本当の国境までは入れることになりました!  数10メートルの砂利道を進むと、急に塗装された道が出てきます。この境がバングラデシュとインドの国境です。道の脇にはバングラデシュ側にベンガル語で「バングラデシュ」、インド側に「IND」と彫られた石が置かれていて、これが国境の目印になっていました。国境をまたぎ半分バングラデシュ、半分インドと遊ぶコーチたち(笑)。  貴重な体験をさせていただいた国境警備隊にお礼を言って帰路につきました。

インドとの国境。バングラデシュ側に門はなく竹のゲートのみ

       国境をまたぎ記念撮影

■一触即発、想像以上の大渋滞!  往路はちょっとしたトラブルもありながら5時間かかった道のりです。往路は何時間で到着するでしょうか?  午前11時過ぎに出発。順調かと思われたのですが、やはりところどころ小さな渋滞が出始めます。嫌な予感しかしません…。途中、予定よりも遅れているため飲食店に立ち寄ると、お店の人が厨房を見せてくれました。大きな鍋で炊いたご飯、煮込み料理などが並んでいます。みんなでビリヤニと、牛肉の入った炊き込みご飯のようなものをいただきます。安定した辛さです。     食事をしていると、1人の青年が黒ヤギを連れてお店にやってきました。ベンガル語で何か話をしています。すると渡辺さんが「そのヤギはいくらするの?」と冗談で尋ねると、「これは売り物じゃない!」と急いで逃げ出す青年でした(笑)。そのやり取りを笑ってみているお店のおじさん。バングラデッシュの日常を垣間見た気がしました。

  飲食店の店内は日本でも見慣れた雰囲気

      辛そうな煮込み料理が並ぶ厨房

 ここからが長かった!  最終的にダッカの滞在先に戻れたのは出発してから約8時間後でした。この日は木曜日で、バングラデシュでは休日前、日本でいう「花金」です。都心部に近づくほど渋滞がひどくなり、普段「プップ~」くらいのクラクションが「ブッブー!!」とイライラがこもっているのがよくわかります。少しでも前に動く列があると、そこに向かってバスからバイクまで、様々な乗り物が我先にと突っ込んでいこうとするのです。  信号がない、交通ルールが守られない、加えて殺意的なクラクションの嵐の中、一同唖然とするしかありません。そんな中、渡辺さんは「ちょっと行ってきます」と車を降りると詰まっている交差点へ行き、交通整理を始めて、渋滞を解消させてしまうんです! 本人いわく、「パズルゲームが完成するような楽しさがある」そうです(笑)。そんな渡辺さんが「今日の都心部の渋滞は難易度レベル99」と言ったほど、どうにもできない状況でした…。20年住む渡辺さんも「こんな渋滞は初めてです!」という大渋滞にもまれながら、なんとか午後7時時過ぎにたどり着き、急いでトイレに駆け込むメンバーでした(笑) (池田菜美=読売巨人軍野球振興部)

渋滞が日常なので、停車すると食料などを売りにきます

誘導員よりも積極的に車を誘導する渡辺さん